「モリタグループ」は、消防・防災に関わる製品をずっと作ってきた会社。もともとは、消防車等を作っている会社がはじまりで、消火器を作るようになった専門メーカーです。そこで新しく「+maffs」(マフス)という生活者にむけた防災ブランドを立ち上げたのが、新規事業開発課 課長の北里 憲さん。
実現に至るまでの経緯と、「+maffs」に対する思いをうかがいました。
「+maffs」を立ち上げるきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災です。
防災を専門としたメーカーに入社して初めて、大きな災害を目の当たりにしました。震災の状況をニュースで何度も見ながら、不安とも恐怖ともいえない、「焦り」のような感情でいっぱいだったことを覚えています。いてもたってもいられず、震災発生の翌日には、東北支店の同僚達に不足しているモノを聞き、それを箱いっぱいに詰め、応援のメッセージを大きく貼って送りました。
数日後、同僚からメールが届きました。そこには東京から物資を送ったみんなへの感謝の言葉とともに、一枚の画像が添付されていました。その画像は、まだ片づけもままならない事務所に貼られた、僕らが送った応援メッセージでした。それを見たとき、彼らの役に立てた気がしてすごくうれしかったんです。しかし、それと同時に、この気持ちを忘れてはいけないし、防災に携わる者として、災害が起きてしまう前に、もっとやれることがあると思いました。
社会インフラとしての消火器や消火設備の普及は日本の安心・安全を支える、大切でとても意義のある事業です。日本は、消防設備を備えることに対しての基準は高いんです。私たちが日常的に使用する施設には、消火器やスプリンクラーといった設備が備えられているし、きっちりと定期的にメンテナンスされています。製品の品質も高い。しかし、それがあまりに当たり前のことになっているために、一般の人々の防災意識を高めたり、実感として生活の中に防災を感じることにはなかなか繋がらないのかもしれないと考えるようになりました。
でも災害が起きたとき、それぞれが自分とその家族を守る必要が出てきます。そのためには個々が防災について意識していかなければならない。だったら私たちがやるべきことは、もっと個に合わせて防災を伝えることではないだろうか。いざというとき、「自分が防災の意識を持っていたから助かった」と思える人を増やしたい。地道な活動にはなるけれど、防災の意識を持つ人が一人ずつ増えていけば、いずれは地域や国全体になるはず・・・・・・。
そんなことを考えながら仕事をしているうちに、震災から3年ほどが経っていました。あれだけの災害だったのに、災害への備えも、一過性のことになってしまっている。被災地から離れた場所では、防災への意識が少しずつ薄れてきてしまっているように感じていました。
このままでは、次に災害が起きたとき、また同じ想いを抱えることになってしまう。ずっと考えていた「個々の防災の意識を高めるために」できることにチャレンジすべきではないだろうか。
それが「+maffs」のスタートです
みんなが防災を「誰かがやってくれること」ではなく、「自分が能動的にやるもの」と考えるためには、ポジティブな思いが必要です。人は、素敵なインテリアや趣味といった所謂ライフスタイルのためなら、面倒なことでも前向きに頑張れるものです。そこにヒントがある気がしました。
私たちの日々の生活って、例えるとお団子のようなものだと思うんです。自分のライフスタイルという串があって、そこにキャンプ、DIY、料理などの趣味や、家事、育児を、お団子としてさしていく。でも串の長さには限りがあって、いくつでもお団子をさしていけるわけではない。
今までの防災意識を高めてもらうための活動って、「防災をお団子の1つにしてさしてください」というイメージだったんだと自分自身を省みて思います。でも、それはやっぱり無理がある。
だったら、防災をあんこやきなこといったお団子をおいしくするための調味料と捉えて、暮らしの中に取り入れていくのはどうだろう。それが自分のライフスタイルと重なったり、繋がったりしていけば、少しずつ防災が生活に浸透していくかもしれない。そうすれば、無理なく、自然と能動的な取組みにできるはず。
だから私たち「+maffs」がすべきことは、みんなも気づかないライフスタイルと防災の接点を探して、提案をすることだと考えています。
もちろん、社内でもいろいろな意見が出ました。今まで自治体や企業との取引がメインなので、一般の人に届ける仕組みを新しく作り上げるのは大変だし、商売として成り立つのかという不安もある。だけど諦めずに、立ち上げメンバーとなってくれた同僚たちと一緒に、伝えたい思いを何度も話して伝えました。
実は、入社したときに、「こんな仕事をしているんだよ」と伝える意味もあって、実家に消火器をプレゼントしたことがあるんです。従来の赤い大きな消火器です。最初は喜んでくれていた両親でしたが、月日が経つとともに棚の隅とか柱の後ろとかに隠されてしまうようになって。「あれどこにあるの?」と聞くと「あー、多分その棚の奥のほう」みたいな答え(笑)。
でもいざというとき、消火を開始するのは少しでも早いほうがいい。家族みんながどこに消火器があるか認知できていれば、消火活動の第一歩が早くなるんです。つまり消火器は、いつでも手に届き、誰にでも見えるところに置いておく必要がある。
そんな経験が、「+maffs」のモノ作りにも生かされていると思います。
「防災をライフスタイルに。」というコンセプトを実現していくために、まず最初に作りたかったのは防災として象徴的な製品である消火器でしたが、消火器を家に置いてもらうことがゴールではないんです。自分の状況や家族に思いを馳せて、何が必要なのかを考えること。そしてその意思を継続させることが大切です。
それぞれのライフスタイルに馴染むものであれば、それが叶えられるのではないでしょうか。
今後は、ライフスタイルを提供することを仕事としているメーカーやブランドと、コラボレーションしていくことも視野に入れています。いろいろな視点からの防災を展開していきたいですね。できることは、まだまだあると思っています。
#01 新防災ブランド「+maffs」に込めた思い
#02 防災をデザインする
#03 「+ 住宅用消火器」ができるまで(前編)
#04 「+ 住宅用消火器」ができるまで(後編)