2019.01.16

防災をデザインする

北里さんが発案した「+maffs」の消火器を、実際にデザインに落とし込んだのは、社内デザイナー。まるで、おしゃれなインテリアグッズのように見えるグッドデザインな消火器は、どのように出来上がったのでしょうか。 
「+maffs」のデザインに関するエピソードをうかがいました。

「制限のなかでデザインを考える」

発案者である北里は、企画を考えてから数年間、通常業務の合間に「+maffs」のビジョン等を考えていたそうです。そんなわけで、ロゴのデザインもイメージがほぼかたまっていました。マークは、“安全、安心”を象徴する十字をクリップで表現したもの。クリップには、防災をさりげなく身近に留める、普遍的な存在に、という気持ちが込められています。
北里からのデザイン開発の依頼は、概ね形やサイズ、ロゴマークという材料はそろっていて、「+maffs」のビジョンが伝わる商品デザインをしてほしいということでした。住宅用消火器は業務用消火器とは異なり、ベースカラーが赤という色の制限はないですが、表示のルールはあります。使用方法や注意事項等を説明する文言やイラストの表示、いわゆる記銘板をつけなくてはいけません。記銘板のサイズや表示する場所も、国家検定品としてのルールが決まっています。その制限のなかでデザインすることが、私の仕事でした。

「ちょっと上質なライフスタイルを目指す」

デザインをする際に、まずは「防災をライフスタイルに。」という「+maffs」のビジョンをつきつめて考えました。暮らしの中で突然起こる災害に対して、日常的に備えてもらうためには、住まいに溶け込むようなものがいいな。では、メインターゲットである30代の女性が欲しいと思う消火器ってどんなものだろう。そこで、雑誌を見たり、マーケティング課の資料を参考にしたり、リサーチをしたんです。
その結果、今の30代の女性たちが買いたいと思うものは、安っぽいものではなく、かといって高級なものでもない、その中間じゃないかなと。パンに例えると、スーパーで買える安価なものではなく、かと言って高級菓子のようなものでもなく、近所のパン屋さんで買うふわっとしたおいしい食パン。背伸びをしすぎない“ちょっと”上質な暮らしを実現できる良品。
じゃあ、上質さをどんなふうに表現するかと考えて、マットな質感で、シンプルなデザインという案が出てきました。そこでマットな塗装を施すことに決定したんです。

「クラフト紙のタグで、親しみやすい消火器に」

シンプルなデザインといっても、生活に寄りそうあたたかさも欲しいし、「+maffs」というブランドを認知してもらうためのロゴも打ち出したい。それで、ロゴと記銘板を入れたシールをいくつか作ってみました。和紙で作ってみたり、少し色を入れてみたり。試作段階で展示会に出展してみると、クラフト紙で作ったタイプが一番人気でした。
ところが、そこにもハードルがありました。消火器の使用期限である5~10年のあいだに、記銘板の表示が消えない品質基準を満たすために、実際にクラフト紙をラベルにしようとしても、クラフト紙の耐久性の問題をクリアする必要がありました。水や光に強い紙を探し出しても、シールに加工できなかったり。もう、試行錯誤の連続でした。
記銘板は従来通り本体にシールとして貼り、ロゴは別にするのはどうだろう。スリーブ式にしようかとも考えましたが、せっかくのマットな塗装の美しさをなるべく隠したくないなとも。そんな話をしているうちに、ふとロゴをタグにしようと思いつきました。荷物につけるような、雑貨屋さんにあるような紙のタグです。タグの裏には、使用期限を書き込めるようにしました。従来の記銘板にも使用期限が記載されているのですが、なかなか見ない部分。タグだとチェックしやすいし、自分の手を動かして書き込むことで、愛着がわくという効果もあります。使用期限がきたら、また「+maffs」を選びたいと思ってもらえるような付加価値になるといいなと思っています。

「工場との連携で生まれた白い消火器」

本体のマットな塗装を実現するのもなかなか難しいことでした。同じものをどれだけ効率良くつくるかということを重視してきたので、新しい色を出すだけでもハードルが高い。ましてや真っ白なんて、作っている最中にも汚れやすいし、生産効率が悪くなるという意見もありました。それでも「防災をライフスタイルに。」というコンセプトの説明を何度も繰り返しました。
工場のスタッフと、何度も何度もやり取りを重ねました。私たちの希望を実現してくれたのは、確かな技術を持った工場の職人たちです。「マットな白1色で」と依頼しても、職人たちが「うーん」って唸るのを見ていると、「ああ、難しいんだなあ」と。実際に試作品が上がってきても、下地の錆止めの色が透けてしまったりして、イメージしていた色にはなかなかならない。試作を何回も繰り返すうちに、理想の色に近づいてきたときはうれしかったですね。

「防災をより身近な存在に」

できあがった試作品を、「DESIGN TOKYO」という展示会に出展した際は、既存の消火器との違いを見せたかったので、ブースの空間デザインにもこだわりました。これまでの防災のイメージを変えようと思い、カウンターとハイスツールを置いたカフェのような空間に消火器を並べたんです。たくさんの人が「これはなんだ?」と興味を持ってくれて、手応えを感じましたね。
防災という大きな目的は業務用も住宅用も同じですが、「+maffs」はより暮らしに身近な存在。自分の手元に置いておけるし、友達や家族が買ってくれるかもしれないと思えるのがうれしいです。

+maffs 「+ 住宅用消火器」開発ストーリー

#01 新防災ブランド「+maffs」に込めた思い
#02 防災をデザインする
#03 「+ 住宅用消火器」ができるまで(前編)
#04 「+ 住宅用消火器」ができるまで(後編)